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テープ起こしストの招福論

公開日: : テープ起こし

 う~ん、きょうも一日、全く見ず知らず・まるでシンパシーのない人たちの会話を無感情にゴルゴ13のように文字に起こす、そんなテープ起こしという摩訶不思議な作業が終わったか、さて寝るとするか。と、僕は職場としているこたつから一たん抜け出し、いつものように衣服を脱ぎ、真っ黒い靴下と大体白いブリーフだけの姿になり、改めて職場兼寝床としているこたつに首まで潜った。こたつが寝床で寒いのなら一たん出ずにそのまま潜れば、あるいは一たん出るにしても9分の8裸で戻らず、パジャマを象徴とする寝巻類を着込めばいいじゃないかと言われる向きもあるだろうけど、僕は地肌に直接こたつの温気が当たるのが好きなのだからしょうがない。弱で。
 しかしここでいつも思うのは、一般的なこたつの足というのはもうちょっと高くつくれないのかしらということ。なぜなら僕ぐらいのホモ・サピエンスの雄の成獣が潜って横臥すると、大概のこたつは腰との接触辺が持ち上がって斜めってしまい、台の上の今まで半分ぐらい飲み、残りは明朝目覚めた瞬間に低血圧の体を気つけるべく、ぐわっと一気に飲もうと思って残しているアイスコーヒー入りカップが倒れてしまったりするからだ。言ってるそばから、ほら、きょうもやっちゃった。
 「ああっ、ちくしょう!」と、自分のほかにはだれもいない部屋で一人雄叫び、こぼれたコーヒーの始末をするためにこたつからはい出て、黒い靴下と大体白いブリーフのみという姿で歯をかちかち言わせ、ひざをこすり合わせて震えながらふきんを操るその様はきっととてもこっけいなので、もしもだれかが今、僕の部屋をのぞき見してたらきっと笑うだろうな。だれがって、のぞいた人が。そして、昔から「笑う門には福来る」なんていうぐらいだから、きっと僕を見て笑ったその人の自宅の門には、福が来るのだろうな。その言葉ができたころには交通の便が発達していなかったから福が来るにも何カ月、あるいは何年もかかったであろうけど、何事もスピード時代の現代では、遅くとも次の次の日くらいに福が来るのだろうな。
 それにつけても他人が福を得る要因をつくるなんて、我ながらよいことをしたんもんだなあ。でも、そのよいことをした僕には一体、何が来るのだろう。笑う門に福が来るのはいいとして、笑われた門には何が来るのかを、先人も明言していない。何もないのだとしたら全くもって不公平な話だ。そもそも笑った人は、笑うという行為がそれ自体が気持ちのいいことで、それだけでもう十分に福を得たといっても過言ではないのに、その上さらに自宅にまで福がやってくるというのだから、こんな一粒で二度おいしい話はない。しかもわざわざ駅まで迎えに行ったりごちそうを用意したり、部屋に掃除機をかけ、飼い猫に「ほらっ、もうすぐ福さんが来るから掃除してんのに、あんた邪魔だよ」なんて言って掃除機の吸引口で追い立ててるうちに何だかサディスティックな気分になってきて、逃げまどう猫を部屋の隅に追い詰めて悪魔のような笑みを浮かべて喜んでいたら、進退きわまった猫が、文字に無理やり起こすとふにゃおんっという音に近いかけ声とともにジャンプ一番飛びついてきて、おもくそ顔をひっかかれて顔面すだれになったりしないでも、福のほうからわざわざ来てくれるというのだからよいこと尽くめだ。
 こんなによいこと尽くめの崇高とも言える人様に笑われるという行為をしても、笑われた者には何の報いもないとは考えがたい。人に善行を施せば必ずやみずからに帰ってくる、情けは人のためならず、という言葉もあるくらいだ。ということは、僕の今の醜態はだれにも見られてなかったのかしら。そういえばカーテンのすき間も10センチ程しか、あいているにすぎない。しかももう草木も裸で眠る丑三つ時。これではこっけいを演じて人を笑わせてその人の門にも福を来させ、あわよくば自分にも福を呼び寄せることは難しいかなあ。
 そう思いつつカーテンの下をふと見ると、読みもせずに無造作にほうっておいたディスカウントスーパーの新聞折り込み広告が目に飛び込んできた。するとそこには何と、こたつの足の高さを自在に調節できるアタッチメント商品が載っているではないか。おお、これこそ僕が長年、心の無意識の中で探し求めていた逸品ではないか。きょう今ここで君(こたつの増設足)とめぐり合う福を得たということは、やはり先ほどの僕のこっけいな姿を見て笑った人がいてくれて、笑う門の福のお返しの笑われる門の福が来たということであろう。門というか、カーテンの下だけど。
 と思うとこの福を僕に与えてくれた人、すなわち僕のさっきの姿を見て笑った人へ猛烈に感謝の意を示したくなり、きっとまだ近所にいてくれることを期待し、僕がさらに、この黒靴下白ブリ姿で横っ飛びダンスをすればさぞかし再び笑い転げてくれて、あわよくばまたさらに福の無限ループが発生して僕にも新たな福が来るかもよと打算してにやっと笑った。そして、しゃっという音とともに両手でカーテンを全開。レッツゴー!と叫んで跳躍した瞬間、こたつの角に弁慶の泣きどころをしこたま打ちつけ悶絶、の後には一体僕に、何が来るのであろうか。

※この文章の表記は衆議院会議録に使用される「標準用字用例辞典」表記に準拠しています。統一感のある表記のテープ起こしはITテキストサービス(合同会社ハルクアップ)へ。

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