2011年 テープ起こし対象メディア統計

 昨年2011年の1年間で、弊社にて依頼を受けましたテープ起こし業務の対象音源統計を見てみました。2011年現在、世の中で録音という行為がどのような方法で行われているかの文化的資料の一つとして、100年後の人に笑ってもらうことが目的の記事です。

音声・動画内訳

2011年テープ起こし音声・動画内訳グラフ
 音声か動画かの内訳です。圧倒的に音声からの起こしが多数でした。動画と音声の混合案件も多少はありました。動画があると、例えば座談会など、音声のみですと発言者の特定が難しい場合に助かることがあります。ですが、動画の撮影の仕方で、画質が荒かったり人が重なっていると(特に顔部分!)意味がなかったりします。
 インタビュアー・司会・座長など、その会話に必ず一人しかいないであろう役割の人はよいのですが、同性・同世代で立場が同じ人が複数いると、100%の区別・特定はなかなか難しいです。座談会出席者や会議の平委員などです。そのような場合は、声質はもちろんですが、日本語の特徴の、「相手との関係により人称代名詞や敬語の使い方が変わる」ことや、その人の口癖、すべての発言の冒頭に「例えば」をつけたり、全然要していないのに必ず「要するに」と言うなどを、起こし作業をしながら見出し、発言者特定の一助とします。
 ちなみに「不明」は、単にメモし忘れただけです(笑)。多分、音声ファイルだと思います。起こし対象メディアは作業が終わり、お客様の検収完了にてすぐに削除していますので、事後調査ができません。音声は強烈な「個人情報」です。持っていてもリスクがあるだけですので、当社ではさっさと完全消去します。作業スタッフにもそのことはうるさいぐらいに念を押しています。

デジタル・アナログ内訳

2011年テープ起こしデジタル・アナログ内訳グラフ
 デジタル音源が圧倒的です。アナログは、カセットテープ・VHSビデオテープが該当になります。さすがにここ数年、マイクロカセットテープはお目にかかりません。アナログ音源の場合は、テープ起こし作業ができるよう、音声ファイルへダビング工程が必要なため、一手間かかります。カセットテープ起こし専用の機器があることはあるのですが、操作するたびにがちゃがちゃとうるさく、ピンポイントで聞きたい場所も文字どおりアナログで早送り・巻き戻しをしなくてはならないので、ダビングして音声ファイル化してしまっています。
 また、年に1回はあったMD案件が、昨年はありませんでした。ICレコーダーでありつつ、PC接続非対応の案件もありませんでした。MD・PC接続非対応ICレコーダーでの録音は、録音自体はデジタルですが、テープ起こし作業を行うためには、やはり一度、その録音時間分と同量の時間をかけて、リアルタイムダビングをする必要があるので、テープ起こし上の扱いといいますか感覚としましては、「アナログ」の感があります。そして間違いなく、物理的な送付コスト(受け渡し日数・郵送料)がかかりますので、テープ起こしをする前提の録音を行う場合は、PCにデータを直接移せるレコーダーで行うことをお勧めします。
 デジタル音源でも、送付方法はCDやDVD等のメディアに記録したものを郵送される方もいますが、インターネット経由でのやりとりが一番合理的です。テープ起こしの対象音源は数十分以上の録音(数十メガ以上の容量)が大半なので、音声ファイル自体をEメール添付で送付するのは送受信エラーの可能性があります。ファイルストレージサービス、また、所有のウエブサーバーへのアップロード、スカイプ経由等、インターネット経由であれば、その都度の送料はかかりません。弊社ではコスパ的にも無料ファイルストレージサービスをお使いいただくことをお勧めしています。無料サービスは通常、保存期間も短く制限されているため、テープ起こしのような一時的なファイルの受け渡しにはかえって好都合です。保存期間を過ぎると自動的に削除されるので、セキュリティー的にも特に心配しなくてよいと考えています。

音声内訳

2011年テープ起こし音声内訳グラフ

 音声のみの場合の内訳です。mp3形式で約半分、wma形式と合わせて、この2音声ファイル形式で約8割を占めました。驚くことに(?)カセットテープがいまだに無視できない割合で健在です。徐々に消滅していくのは間違いないので、早くなくなってほしいというのが偽らざる心境です。wmaは、オリンパスのICレコーダーの多くに採用されている、ウィンドウズ独自のメディアフォーマットです。ウィンドウズPCであれば再生できるので、mp3と比べ、特に問題はないのですが、オリンパス自体に例の事件があったことで、少なからずシェアは落ちるかもしれません。dssというのは、そのオリンパス独自の形式です。通常、オリンパスが配布している専用プレーヤーがないと再生できませんので、一般の人とやりとりする場合、注意が必要です。
 dvf・msvはソニーの独自フォーマットです。音質に比して、比較的ファイルサイズを小さく録音することができますが、これも通常のPCでは再生できないと思われますので、一般的には注意が必要です。ソニーが配布しているプレーヤー、コーデック、またはファイル変換ソフト等で一般的な音声ファイル形式に直す必要があります。
 wavはウィンドウズの非圧縮形式のフォーマットです。ウィンドウズPCならまず間違いなく再生可能です。非圧縮ですので、1分当たり、約10メガの大きさになります。74分で約740MB。なので、これが一般的なオーディオCDの容量です。この音質のままmp3やwmaに圧縮すると、1分当たり約1MBとなります。1分1MBより小さいファイルサイズの場合、音質がやや悪いと推測されます。モノラルだと単純に半分の大きさになりますが、ステレオでも半分の大きさにでき、そうするとまるで受信状態の悪いAMラジオのような録音になり、せっかく録音しても聞き取りが厳しいものとなりますので、録音は録音可能時間数との兼ね合いをかんがみつつ、なるべく良音質設定で行うとよいです。
 wavでもなぜかファイルサイズが小さい場合がたまにあります。何でどうやって録音しているのか、そこはちょっといまだに疑問なのですが、かなり昔に所有していたICレコーダーでもそのようなwav形式保存ができた気がするので、とても古いICレコーダーで録音しているのかもと推測しています。そういう「ミニwav」は、たまにテープ起こし用再生ソフトで再生できない場合があるので、ファイル変換したりしています。
 音楽CD形式とは、CDに音声ファイルデータを記録したもの(データCD)ではなく、CDを音楽CD形式にしたものです。つまり、通常のCDコンポやカーステレオのCDプレーヤーで再生可能な仕様にしたものです。データCD形式で音声(音楽)ファイルをCDに記録しても、CDプレーヤーでは聞けません(mp3対応などの規格の場合を除く)。この音楽CD形式は、PCにコピーすることが可能ですが、一度抽出作業のようなことが必要となるため、データ形式のものを直接コピーするより、やや抵抗があります。もしテープ起こしを依頼する音源をCDに落とすことがありましたら、音楽CD形式ではなく、単純にデータCDとしていただけましたら、それで十分です。記録する際も、特にmp3などの圧縮形式の音声ファイルの場合は、そのほうが早いです(音楽CD化する場合は、圧縮を一度非圧縮に戻す作業が(自動的に)入ります)。

動画内訳

2011年テープ起こし動画内訳グラフ
 動画は本当に多種多様です。テープ起こし作業をする場合、動画から音声だけを抜き出すのが通常ですので、ファイル形式はさほど気にしません。では音声のみがあればよいかといいますと、上述の同性・同世代複数の会議や、例えば講演などでプロジェクターにパワーポイントなどの資料を映し出しているときなどは、その資料が視覚的に確認できる動画ファイルのほうがテープ起こしの精度が上がり、助かります。単純に1対1の対談やインタビュー案件の場合は、動画で撮ったとしましても、音声のみをいただければテープ起こし的には大丈夫です(動画をいただいてもそれはそれでいいのですが)。要するに、その録音内で「何かを視覚的に見ているか否か」で、見ているのであれば、見ているものをご貸与いただけると助かりますという感じです。それは別に動画ではなく、パワーポイントファイルそのものであったり、紙の資料であってもよいということになります。資料があると精度も上がり、作業スピードも上がりますので、作業者・依頼者双方にとって、メリットがあるといえると思います。
 DVDムービーは、いわゆるDVDビデオ形式のことです。これも音声における音楽CDとデータCDの相違のような類推をしたいただければおおむねよいのですが、DVDの場合は若干、音抜きに手間と時間がかかりますため、ファイル容量との相談になりますが、動画データとしてのDVDメディアで記録していただくほうが、作業はスムーズに進みます。ちなみに、昔は「動画が入っている円盤すなわちDVD」と思われている方が結構おられ、「DVDを送ります」と言われて受け取ってみたらCDだった、ということも多々ありましたが、最近は聞かなくなりました。それよりもマイクロカセットと言われて受け取ってみたらICレコーダーということはまだありますので、それはかえってマイクロカセットではなくてほっとするのですが、まだまだICレコーダーの名称は一般的ではないのかなとも思ったりします。
 VHSビデオテープは、カセットテープ同様、リアルタイムダビングを行い、音声ファイル化します。上述の「何かを見てる場合」は動画もろともデジタル化するため、その他デジタルムービーものより、多くの時間がかかりますが、テープ起こし自体はできますので、少しご希望納期に余裕を持ってご依頼ください。ベータビデオテープは、申しわけございませんが、弊社では承りかねます(昔はベータデッキを持ってたんですけど)。

現在・そして将来のテープ起こし対象メディアはどうなる

 上記のように、テープ起こしの対象となるメディアはさまざまです。弊社で2011年中に例がなかっただけで、これ以外にもまだまだ別の規格・フォーマットはあります。そしてこれからもより進化したメディアやフォーマットが生まれては消えていくことでしょう。テープ起こしは録音された音声を文字に起こすだけのようで、これらあらゆる音源にキャッチアップし、テープ起こし作業ができるようにアレンジできることも、21世紀のテープ起こしのプロになるには必須の条件であると思われます。「アナログ人間」を自負する人は、幾らタイピングが速くても、テープ起こしのプロを目指さないほうがよいでしょう。

 音声は現在、mp3比率が高いです。動画は相当多様化しています。スマホ等の普及により、手軽に動画が撮れる環境も整ってきているようですので、テープ起こしの動画比率が今後も高まっていくであろうと思います。そして音声・動画比率が逆転して、カセットテープも完全に消え去った後でも、筆箱・下駄箱等同様、やっぱりその行為自体を「テープ起こし」と言っているであろう100年後を笑ってやりつつ、2012年もあらゆるメディアのテープ起こしのご用命をお待ちしております。

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