テープ起こしストは耳がよい? 「録音環境の大切さ」
「テープ起こしのプロは普通の人より耳がよいのですか」とよく質問されます。そういう人も中にはいるでしょうが、多くは至って「普通の耳」の人です。聖徳太子のように複数の人が発した言葉をすべて同時に聞き分けることができる人はまずいないでしょう。だれが聞いてもよく聞こえないような録音データは、やはりテープ起こしのプロが聞いてもよく聞こえないということになります。なので、やはり録音時の環境が一番大切です。
静かな環境で録音する
喫茶店やファミレスや居酒屋などでインタビューや対談・座談の録音することもあると思います。隣席に他者がいると、その人たちの会話も録音に入ってしまいます。また、BGMが流れていると、それも同時に録音されてしまいます。「はい喜んでえ!」などのやまびこも都度録音されてしまいます。通常のカセットテープレコーダーやICレコーダーはマイクが単体、すなわち同じ瞬間に拾った複数の音は、1個のチャンネルに1つの音声データとして被って録音されてしまい、後から各々の音を分離することはできません。重要な発言の際に隣で爆笑されると、爆笑にその発言が負けて、聞こえなくなります。後で音声データを「爆笑」と「発言」に分離し、「発言」だけを聞き直すことはほぼ不可能です。なので、録音の際は、場所はどこでもよいのですが、周囲がなるべくうるさくない場所を選択するようにするとよい録音ができます。以前、電車の線路高架下の喫茶店での録音案件があったのですが、数分ごとに電車が通過する音が入り、そのたびに発言がかき消されるという難物案件がありました。こういうのは幾らテープ起こしのプロでもその騒音部分に被った発言を正確に起こすのは難しいです。
録音機材のよし悪し
環境が悪い場所での録音であっても、きれいに録音することは機材次第で可能です。例えばピンマイク(テレビ出演者が胸もとにつけているようなマイク)を発言者すべてに装着させることができれば、ノイズを拾う確率が下がり、きれいな録音ができます。またさらに、発言者ごとのマイクをすべて別トラックに独立録音させることができれば、再生の際に発言している人の音声だけを再生できるので、言うことなしです。言い合いになり、同時に何人もの人が発言したりした場合でもこれなら聞き起こしが可能です。ここまでの機材は通常は用意できないでしょうけど、理想はこういう録音です。
また、スタンドマイクなどを用意できて、発言者ごとにマイクを設置できたとしても、飲み物や紙の資料などが置いてあるテーブルに直接マイクを設置すると、飲み物を置く際の音や紙をめくる音、「振動」(音=振動)をマイクがダイレクトに拾ってしまい、発言と被る場合が多いです。マイクは発言者がノイズを立てる可能性のある場所から物理的に離して立てられればベストです。発言者がいて、前にテーブルがあれば、そのテーブルのさらに前にマイクを設置できればベストです。マイクスタンドでマイク自体を宙に浮かせられればベターです。(上記ピンマイクも、発言する人にマイクを直接くっつけることにより、その音声(振動)だけを物理的に拾うようにしているのです。歌のレコーディングマイクも空中に浮かし、周囲の振動からなるべく離すようにしているのもそのためです)
今のICレコーダーはすぐれた物が多いので、円卓などを囲んだ3~4人の座談会程度でしたら、発言者に個別にマイクを立てなくてもよい録音ができます。周囲が多少うるさい環境でも、レコーダーの録音モードを「口述モード」(「会議モード」など、広範囲の音を拾うモードを避ける)で録音すれば、割と近くの音だけが録音できます。そして、なるべくハイクオリティ設定で録音してください。(ICレコーダーの性能にもよりますが、設定ごとの最大録音可能時間と録音案件の予定時間数を比べ、よりクオリティの高い設定にすると、高音質の録音ファイルが得られます)
ご自身で録音をされて、その録音データのテープ起こしを依頼される場合、上記のような録音環境を心がけると、よい反訳書ができ上がってくる確率が上がります。
テープ起こしの「耳の良さ」とは
テープ起こしの「耳の良さ」は聴力の良さではなく、語彙力や読解力(推測力)です。例えば以前、テープ起こし反訳書を校正した案件で、ある発言者が東国原宮崎県知事の発言を引き合いに出し、「○○をどげんかせんといかん」と言っているものがありました。「どげん~」以降が聞き取りづらく、これをテープ起こし作業をした人はこの流行語を知らなかったのか、「どうにかしなきゃと」と反訳していました。意味は合っていますが、ここはきちんと東国原氏のフレーズを踏んだ正確な起こしをしないと意味がありません。「東国原」「だれもが知っていそうな発言の引用」「方言っぽい」という要素に疑問を持ち、これらの要素から「もしかしたら、東国原知事の独特のフレーズがあるのかもしれない」と推測し、それを調べる。こういう姿勢が大事です。テープ起こしに向いている人でも言いましたが、この「引っかかり」と「探求心」の結果、「耳がよい成果物」ができ上がるのです。
そして、かと思うと「どうにかしなきゃいけない」と意訳してしまったほうがいい案件もあります。こういった部分を臨機応変に対応することもまた「耳のよさ」であると思います。テープ起こしのプロの耳のよさは、そういうものです。
横浜・横浜市周辺で会議や対談・インタビューの文字起こしは「合同会社ハルクアップ」
(※横浜・神奈川以外の遠方からのテープ起こしの依頼も受けております)
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