鳩山首相辞任の文字起こし

 お集まりの皆さん、ありがとうございます。そして、国民の皆さん、本当にありがとうございました。国民の皆さんの昨年の暑い夏の闘い、その結果、日本の政治の歴史は大きく変わりました。それは国民の皆さんの判断は決して間違っていなかった。私は今でもそう確信をいたしています。こんなに若い、すばらしい国会議員がすくすくと育ち、国会の中で活動を始めてくれています。それも国民の皆さんの判断のおかげでございます。

 政権交代によって、国民の皆さんのお暮らしが必ずよくなる。その確信のもとで、皆さん方がお選びいただき、私は総理大臣として今日までその職を行ってまいりました。皆さん方と協力をして、日本の歴史を変えよう、官僚任せの政治じゃない、政治主導、国民の皆さんが主役になる政治をつくろう。そのように思いながら今日まで頑張ってきたつもりでございます。私はきょうお集まりの国会議員の皆さんと一緒に、国民のための予算を成立させることができた、そのことを誇りに思っています。ご案内のとおり、子ども手当てもスタートいたしました。高校の無償化も始まっています。子どもに優しい、未来に魅力のある日本に変えていこう、その私たちの判断は決して間違っていない。そう確信をしています。

 産業を活性化させなきゃならない。特に一次産業が厳しい。農業の、一生懸命やっておられる方々の戸別所得補償制度、お米からではありますが、スタートさせていくこともできています。そのことによって、一次産業が、さらに二次産業・三次産業とあわせて、六次産業として、大いに再生される日も近い。私はそのようにも確信をしています。さまざまな変化が国民のお暮らしの中に起きています。水俣病もそうです。さらには、医療崩壊が始まっている地域の医療を何とかしなきゃいけない。厳しい予算の中で、医療費をわずかですがふやすことができたのも、国民の皆さんの意志だと、私はそのように思っています。これからもっともっと、人の命を大切にする政治、進めていかなければなりません。

 ただ残念なことに、そのような私たち政権与党のしっかりとした仕事が、必ずしも国民の皆さんの心に映っていません。国民の皆さんが、徐々に徐々に、聞く耳を持たなくなってきてしまった。そのことは残念でなりませんし、まさにそれは、私の不徳のいたすところ、そのように思っています。その原因、2つだけ申し上げます。やはりその1つは、普天間の問題でありましょう。沖縄の皆さんにも、徳之島の皆さんにも、ご迷惑をおかけしています。ただ、私は本当に、沖縄の外に米軍の基地をできる限り移すために努力をしなきゃいけない。今までのように沖縄の中に基地を求めることが当たり前じゃないだろう。その思いで半年間、努力をしてまいりましたが、結果として、県外にはなかなか届きませんでした。いやこれからも、県外にできる限り彼らの仕事を外に移すように努力をしてまいることは言うまでもありませんが、一方で北朝鮮が韓国の哨戒艇を魚雷で沈没させるという事案も起きています。北東アジアは決して安全・安心が確保されている状況ではありません。その中で、日米が信頼関係を保つということが、日本だけではなく、東アジアの平和と安定のために不可欠なんだと。その思いのもとで、残念ながら沖縄にご負担をお願いをせざるを得なくなりました。そのことで、沖縄の皆様方にもご迷惑をおかけしています。そして特に、社民党さんに政権離脱という厳しい思いをお与えしてしまったこと、残念でなりません。ただ皆さん、私もこれからも社民党さんとは、さまざま国民新党さんともにではありますが、一緒に今まで仕事をさせていただいてきた、これからもできる限りの協力をお願いを申し上げてまいりたい。さらに沖縄の皆さん方にも、これからもできる限り、県外に米軍の基地というものを、少しずつでも、移すことができるように、新しい政権としては努力を重ねていくことは、何より大切だと思っています。社民党より、日米を重視したけしからん、その気持ちもわからないでもありません。ただどうぞ、社民党さんとも、協力関係を模索していきながら、今ここはやはり、日米の信頼関係を何としても維持させていかなきゃならないという、その悲痛の思い、ぜひ皆さんにも、ご理解を願いたいと思っています。

 私は詰まるところ、日本の平和は、日本人自身でつくり上げていくときを、いつかは求めなきゃならないと思っています。アメリカに依存し続ける安全保障、これから50年100年、続けていいとは思います。そこのところもぜひ皆さん、ご理解をいただいて、だから鳩山が何としても、少しでも県外にと思ってきたその思い、ご理解を願えればと思っています。その中に、私は今回の普天間の本質が宿っている。そのように思っています。いつか、私の時代は無理でありますが、あなたがたの時代に、日本の平和を、もっと日本人自身で、しっかりと見つめ上げていくことができるような、そんな環境をつくることを、現在の日米の同盟の重要性は言うまでもありませんが、一方でそのことも模索をしていただきたい。

 私はその確信の中で、しかし、社民党さんを政権離脱という大変厳しい道に追い込んでしまったその責任はとらなければならない。そのように感じております。今、一つはやはり、政治とカネの問題でありました。そもそも私が自民党を飛び出してさきがけ、さらには民主党をつくり上げてまいりましたのも、自民党政治ではだめだ、もっとお金にクリーンな政権をつくらなければ、国民の皆さん、政権に対して決して好意を持ってくれない。何としてもクリーンな政治を取り戻そうではないか。その思いでございました。それが結果として、自分自身が、政治資金規正法違反の元秘書を抱えていたなどということが、私自身、全く想像だにしておりませんでした。そしてそのことが、きょうご来会の議員の皆様方に、大変なご迷惑をおかけしてしまったことを、本当に申しわけなく、何でクリーンであるはずの民主党の、しかも代表が、こんな事件に巻き込まれるのか、皆様方もさぞご苦労され、お怒りになったことだと思います。私はそのような政治とお金に決別をさせる民主党を取り戻したいと思っています。皆さん、いかがでしょうか。(拍手)

 このことで、私自身も、この職を引かせていただくことになりますが、あわせてこの問題は小沢幹事長にも、政治資金規正法の議論があったことも、皆様方、周知のことでございます。先般、2度ほど幹事長ともご相談を申し上げながら、「私も引きます。しかし幹事長も、恐縮ですが、幹事長の職を引いていただきたい。そのことによって、新しい民主党、よりクリーンな民主党をつくり上げることができる」そのように申し上げました。幹事長も「わかった」そのように申されたのでございます。決して受動的という話ではありません。お互いにその責めを果たさなければならない。重ねて申し上げたいと思いますが、きょうも見えております小林千代美議員にもその責めをぜひ負っていただきたい。まことにこの高い壇上から申し上げるのも恐縮でありますが、私たち民主党を再生させていくためには、とことんクリーンな民主党に戻そうじゃありませんか、皆さん。そのためのご協力を、よろしくお願いをいたします。(拍手)

 必ずそうなれば、国民の皆さんが、新たな民主党に対して、聞く耳を持っていただくようになる。そのように確信をいたしています。私たちの声も、国民の皆さんに届くでしょうし、国民の皆さんの声も、私たちにすとんと通る、新しい政権に生まれ変わると確信をしています。

 皆さん、私はしばしば宇宙人だといわれております。それは私なりに勝手に解釈すれば、今の日本の姿ではなく、5年10年20年、何か先の姿を国民の皆さんに常に申し上げているから、何を言ってるかわからんよ、そのように国民の皆さんに、あるいは映っているのではないか、そのようにも思います。例えば地域主権、原口大臣が先頭を切って走ってくれています。もともと、国が上で地域が下にあるなんて社会はおかしいんです。むしろ地域のほうが主役になる日本にしていかなきゃならない。それがどう考えても、国会議員や国の官僚がいばっていて、くれてやるからありがたく思え、中央集権の世の中、まだ変わっていませんでした。そこに少なくとも風穴があいた、かなり大きな変化が今できつつある。これからさらに、一括交付金など、強く実現を図っていけば、日本の政治は根底から変わります。地域の皆さんが思いどおりの地域をつくることができる、そんな世の中に変えていけると思います。今すぐ、なかなかわからないかもしれません。しかし5年10年たてば必ず、国民の皆さん、ああ、鳩山の言ってること、こういうことだったのか。わかっていただけるときが来ると、確信しています。

 新しい公共もそうです。官が独占している今までの仕事をできる限り公を開くということをやろうじゃありませんか。皆さん方が主役になって、本当に国民が主役になる、そういう政治を、社会をつくり上げることができる。まだ、なかなか新しい公共という言葉自体が、なじみが薄くて、よくわからん。そう思われているかもしれません。ぜひきょうお集まりの議員の皆さん、この思いを、これが正しいんだ、官僚の独占した社会ではなく、できるだけ民が、国民の皆さんができることは全部やりおおせるような社会に変えていく。その力を貸していただきたいと思います。東アジアの共同体の話もそうです。今すぐという話ではありません。でも、必ずこの時代が来るんです。

 おかげさまで、3日ほど前に済州島に行って、韓国の李明博大統領・温家宝中国の総理とかなりとことん話し合ってまいりました。東アジア、我々は一つだ。壁に「We are the one 我々は一つである」その標語が掲げられていました。そういう時代をつくろうじゃありませんか。国境を越えて、お互いに国境というものを感じなくなるような、そんな世の中をつくり上げていく。そこで初めて、新たな日本というものを取り戻すことができる。私はそのように思っています。国を開くこと、そのことの先に未来を開くことができる。私はそう確信をしています。ぜひ、新しい民主党、新しい政権を皆さま方の力によっておつくりいただきたい。そのときに、今、鳩山が申していた、どうも先の話だなあと思っていたことが、必ず皆さんの連携の中で、よしわかったと理解をしていただける、国民の皆さんの気持ちになっていけると、私はそう確信をしています。

 お話が長くなりました。私は済州島に行って、ホテルの部屋の先にテラスがありまして、そのテラスのところに一羽のムクドリが飛んでまいりました。どうもそのムクドリ、実は我が家にいるムクドリと全く同じでありました。あ、失礼、ヒヨドリであります。鳥の名前を間違えちゃいけない。一羽のヒヨドリが済州島のホテルに飛んでまいりました。そのヒヨドリは我が家の、我が家から飛んできたヒヨドリかなあ、姿形が同じだから、そのように勝手に解釈して、そうかこの鳥も「早く、もうそろそろ自宅に戻ってこいよ」と、そのことを招いているようにも感じたところでございます。

 雨の日は雨の中を、風の日は風の中を自然に歩けるような、苦しいときには、雨天の友。お互いにそのことを理解しながら、しかし、その先に国民の皆さんの未来というものを、しっかり見つめ合いながら、手をたずさえて、この国難ともいえるときに、ぜひ皆さん、耐えながら、そして国民との対話の中で、新しい時代をつかみ取っていこうではありませんか。

 きょうはそのことを皆様方にお願いを申し上げながら、大変ふつつかな私ではございましたけれども、今日まで8カ月余り、皆さんとともにその先頭に立って歩ませていただいたことに心から感謝を申し上げながら、私からの国民の皆さん、特にお集まりの皆様方へのメッセージといたします。ご静聴ありがとうございました。(拍手)

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