【動画音声文字起こし】古館・プロレス中継裏話(古館モノローグ整文バージョン)

 かなり順番を入れかえています。古館氏のアクション(該当レスラーの形態・声帯模写)が見たい方は、動画をどうぞ。

 おれはアンドレに最後は嫌われて、いまだにアンドレの夢を見るよ。当時、外人ではスタン・ハンセンとアンドレ・ザ・ジャイアントが新日本(プロレス)で看板だったんだよ。おれはハンセンと仲よくなり過ぎちゃったんだよ。ハンセンも離婚したりなんかして、慰謝料が大変だとか、ハンセンとはそこまで話し合った。おれ、ハンセンで英語を覚えたんだもん。一生懸命。ハンセンと話したくて。ハンセンが大好きだったからさ。もう、うれしいんだよ。おれはハンセンに毎週、貢ぎ物とかしてたの。離婚しちゃった後だけど、娘がいるんだよ。娘にって、日本の色鉛筆とかプレゼントすると、すっごい喜んでくれるの。
 例えばおれ、ちょっとマゾっぽいっていうか、あんまりハンセンと仲いいから、きょうは藤波(辰爾)とのシングル・マッチで、藤波には悪いけど、「ハンセン、あの対角線上に走るブルドッギング・ヘッドロックがきれいだから、ぐおお、ばああんって、テキサス・ロデオ・テクニック、これ頼む」とか控室で言うの。「藤波にきょうは対角線上のブルドッキング・ヘッドロックで」って。でもおれ、藤波とも仲いいんだけど、ひどいよなあ、「もう頸椎なんかへし折って」って、そういう感じのことを言ってるわけだよ。たきつけて。「よし、じゃあおまえへのプレゼントだ。対角線上のブルドッキング・ヘッドロックを見せてやる」って。それで試合の実況で、「さあっ、テキサス・ロデオ・マシーン、テキサスロングホーン、スタン・ハンセンの入場です」とか言って、ハンセンが放送者席の横を通るわけよ。そのとき、ブルロープを持ってるわけだよ。それできょうはやるぞって、さっきの約束を守るぞっていう意味で、放送席にこんな太いブルロープで、おれはこうやって、ばあってしゃべってんのに、バコーンッて。で、ピッとウインクする。放送席は壊れるわ、手元の資料は飛ぶんだけど、どっかうれしい(笑)。で、実況の表面(おもてづら)のコメントは、「ああっと、早くも乱入か、たけり狂っているう! スタン・ハンセン、早くもエンジン全開かあ!」って言いながら内心、そのウインクをちゃんと感じて、ものすごくうれしくなっている(笑)。自分だけがハンセンと仲がいい。自分だけが、みたいな。

 ハンセンは、大阪で焼肉を1人で17万食ったから。これはすごかったよ。プロデューサーと一緒だからおれが金払うわけではないんだけど、連れてったわけだよ。大阪府立体育会館で10時半ごろに全部の収録が終わって、11時ごろ。今でも覚えてる、大阪の宗右衛門町のダイドウモン(大同門?)っていう焼肉屋の奥で。座敷みたいなのが少しあって。そしたら、当時は網焼きだったんだけど、「ロース20人前」とか言ってんだよ。もう日本なれしちゃって。アブドーラ・ザ・ブッチャーも日本なれして、銀座のクラブで一度、色紙を書いてタニマチから10万もらって「ゴッツアンデス」って言った。で、「ロース20人前」とか「カルビ20人前」とか言うんだよ。そしたら、こんな銀の大皿で出てくるじゃん。それをこんなに小さい網に、器用に、はしでざっざっざっざって、ピラミッド状に盛るんだよ。それをちょちょちょってすそ野のほうをかき回して、レア状態でばんばん食う。だから、あっという間に10人前、20人前がなくなるんだよ。で、またおかわりなんだよ。がんがん食って、もう見てるだけで(こっちは)腹いっぱい。で、食うだけ食って終始ビール飲み続けて、その後に「もういっぱいだろう」って言ったら、どんぶり飯を2杯食って。「もういいだろう」って言ったら「デザート」って言う。まだデザート食うのかって言ったら、テールスープ2人前がデザート。プロデューサーがわきで金を払うの見たら、17万円。

 昔、六本木にレキシントンクイーンっていうディスコがあって、そこに知り合いがいて、あの(ハルク・)ホーガンとスタン・ハンセンを連れてったら、2人で缶ビール300本を飲んだ。お店もおもしろがっちゃって、「古舘さん、もういいです。お金はいいです。宣伝になるからいい」って言ったら、2人は乗っちゃって、「ただだったらもっと飲んでいいか」って言って、300本超えて、ずうっとでっかいテーブルにピラミッド状につくった。もう、そんなのばっかりだもん。

 ビールといえば、もう死んじゃったディック・マードック。狂犬ディック・マードック。あのパイル・ドライバー(ブレーン・バスター?)の名手。さんざん焼き肉食って、ビールを大ジョッキで何十杯も飲んで、で、その後、「おまえ、つき合ってくんねえか」って言って、それで大阪の屋台へまた出て、「うどん食いてえ」って言うからうどん屋を探したけどもう夜中で屋台がなくて。そしたらラーメン屋があいてて、そこに入ったら、おれの肩を抱きながら、「おまえ、食うか?」、「もうおれ、腹いっぱいで食えない」って言ったら、ラーメン4つ頼んだの。で、「これどうすんだ」って言ったら、「全部おれが順番から食ってくから見ててくれ」って言うの。で、おれの肩を抱きながらラーメンを食おうとした瞬間に、そこのかごにあった生卵を器用に片手でぽん、ぽん、ぽんって割って、1つのラーメンにつき2個ずつ、計8個入れてきれいに平らげた男。さんざん焼き肉を食った後に、ラーメン4杯と生卵8つ、ずずずずって。で、その後、大阪のプラザホテルの1階の奥のバーで、バランタインの12年を2本あけたの。そりゃあ早死にします。

 アンドレは、おじいちゃんもお父さんもお母さんもみんなアンドレよりでかかった。9人家族で、一番ちびだった。だから自分は小さい小さいとペレー山脈の中ではアンドレは思ってたのに、何かの関係でパリに出ていって、モンマルトルの丘でサクレ・クール寺院を見おろすところで見世物小屋みたいなプロレスが催されて、「おまえはでかいんだから出ろ」ってプロモーターに言われてリング上がったら、うおおって歓声が上がって、「えっ? おれはやっぱり、さっきプロモーター言ってたけど、本当にでかいのか?」っていうふうに、それまでは家族で一番のちびだから戸惑って、ふっと横を見たら、エッフェル塔と同じだった。そういう逸話が残ってる。やっぱりでかかった。
 アンドレはパリでデビューして、パリで死んだからね、ホテルで。ハートアタックで。アンドレもおじいちゃんも普通の人より歯より4本多かった。だからそれは血筋なんだよね。でっかいもん。もう、あれ、アンドレ・ザ・ジャイアントの顔、こんなじゃん? 放送席乱入っていうのはよくあって、なれてるんだよ。だけどね、あの顔がここに来て、おれのネクタイとか締め上げるんだよ。夢見るって、怖くて。
 おれはハンセンとか、そっち系統と仲よかったから、アンドレ・ザ・ジャイアントはやっぱりちょっとおれに対して、むっとしたの。「おれが一枚看板だろ」と。「何だおまえ、そっちと仲よくして、このやろう」って。いっとき仲よかったのに、えらいおれを毛嫌いするようになって。しょっちゅう追っかけられたもん。
 もう飛行機なんかでも大変。例えば高松の空港から乗って東京に帰るってときに、あっ、外人と一緒だ、またアンドレがいる、嫌だなって思って。でもいいやって、別に狭い小さな飛行機っていったって、席が一緒じゃなきゃ関係ないやと思ってたら、そういうときに限って最後の最後になって、おれがふっと入ったら……。アンドレ・ザ・ジャイアントっていうのは、一番前の席を2席とるの。幅はどうしようもないじゃん、いすは取れないから。幅はかわいそうだった。で、アンドレは2席のところでこうやってるわけ。そしたら、また、もらったチケットがアンドレと通路を隔てた席なんだよ。「うわあ、アンドレだ」って思うわけよ。でもいいや、関係ないやって、おれも知らんふりして。気がついてないだろう、おれのこと。通路もあるしとか思った瞬間に、ふっと顔を見たら、おれを嫌ってるから、「ゲラウエイ!」って言って。ぶわあってこう、山みたいな、「ゲラウエエエエエイッ!」って。怖いよ、小さなプロペラ機でさあ。こんな顔だよ。「去れ!」っていったって、飛行機だから去りようがないじゃん。おれなんか顔面蒼白だったと思うけど、おれは動かない。「マイシート」とか、わけわかんないこと言ってね、「マイナンバー」とか、そんなことしか言えないだよ、もうびびっちゃって、「マイシート、マイナンバー」とか。「ゲラウエエエエエイッ!」って、ものすごいんだよ。こうやって襟首をこうつかんで。本当に。それでもおれは意地になってこうやってやってたら、後ろのほうに座っている外人レスラーと話をつけて、自分が後ろに行っちゃった。

 スタン・ハンセンで一番おもしろかったのは、あるとき札幌で。スタン・ハンセンは目が悪いんだよ。ふだんはコンタクトレンズで、試合のときは当然、外してるんだけど、それでも血気盛んになると、遠くのやつが見えるんだな。スタン・ハンセンを遠巻きに、折り畳み式の簡易いすを、スタン・ハンセンの分厚い背中に遠くのほうからビヤーンと投げた、眼鏡をかけたおっさんがいたんだよ。そしたらパッと見て、目が悪いはずなのに、ダーッて行ってそのおっさんの襟首をつかんでめちゃくちゃにやっちゃったんだよ。もう顔面血だるまよ。ぼろぼろだよ、そのおやじ。それで控室で、中継とかも全部終わって、(いすを投げたおっさんは)「おれは引かねえぞ」って。新日のフロントとか渉外担当とかがいろいろ出てきて「もうとにかく病院に行きましょう、出血がとまってないんだから」って言っても、「おれは引かねえ。やろう。これは問題にすっからな、おまえら。こんだけやられたら引っ込みつかねえ」とか言って。やくざでもないのに、くだを巻いたりごろ巻いてるわけ。「とにかく病院に」って言っても、「病院なんかいかねえよ、おれは」って。「そりゃあ、確かにな、いすを投げたのは悪いかもしれないけどよ、ここまでやられることはない。おれはもう腹を決めた」ってさんざん言ってるわけよ。そしたら最後はやっぱりなれてるね、新日のフロントが。「何が望みかはっきり言ってくださいよ」って営業マンが言ったら、「驚くなよ、このやろうっ! 次の興行のリングサイド、5枚」って。「何だ、好きなんじゃない、おじさん。お安い御用ですよ、そんなの」って(笑)。

 一度おもしろかったのは、ちょっとやっちゃん系ばりばりと九州で。よくスナックで、ガラスのテーブルがあるじゃない。ガラスで周りがステンレスみたいな。そういうテーブル置いてある店だったの。そうしたら、スタン・ハンセンが酔っ払っちゃって。で、初め、地元のちょっとやくざ系……系じゃない、やくざね、ちょっと酔っ払って、「おお、レスラーじゃねえか」って、そのやくざの中の一人が「腕相撲やろう」って言って。そうしたらスタン・ハンセンが、まだスタン・ハンセンもそんなに飲んでなかったのか、こうやって左手で、こうやってやって、で、おれはしょうがないから、やくざとスタン・ハンセンの間でレディーゴーみたいな。チャーリィ湯谷みたいに、「レディー、ゴー!」ってやったら、ハンセンはわざと負けたの。あいたたたみたいな感じで。そしたら酔っ払ってるから、そのやくざも「いやあ、弱えなあレスラーも」みたいな。そしたら、そういう雰囲気で、ちょっとプチッとくるのよ、スタン・ハンセンが。それで「もう一回やろうか」って言って。で、やった瞬間にハンセンもねらっちゃったんだよね。たち悪い。ただこうやってやればいいのに、一度上へ持ち上げてがあんってやったらバリーンッてテーブルが割れてガラスが刺さっちゃって、大騒ぎになっちゃった。そこからもう、偉いのが代表で酔っ払ってきて腕相撲やっちゃったから、7~8人が、「組長に何するんだ、おらあ、こらあ」って。それでもう、店じゅうめちゃくちゃになったんだよ。
 それで何とか逃げるようにして、みんなで押さえて、ホテルまで戻ったら、(やくざ)また来る、みたいな。ロビーに30人くらいで、があっと来て、「おら、レスラーみんな出てこいよ、こらあ、勝負だ」みたいになったの。そしたらまず、荒川真。力道山2世。ああいうのも出てきて、ちょっと酔っ払ってるから、みんなけっちゃったりするのよ。ジョージ高野っていうレスラーがいて、おれは初めて見たよ、ビジネスホテルのロビーでドロップキックやってるの。あれは異様な光景だよ。下は大理石みたいな普通のロビーで、日刊スポーツとかがわきにかかってるような、観葉植物とかがあるところで、思いっ切りドロップキックをやってるんだよ。それで大騒ぎになって、「猪木出せ」になって。
 それでしょうがないから、猪木さんの泊まってる部屋までおれが行って、「猪木さん、大変ですよ」って。もう、おれも大好きだし、そういうのを見てるのが、あおっちゃったりするのが(笑)。それで、「猪木さん、大変ですよ!」って言ったら、「どうしたんですか」って言うから、「下のロビーがめちゃめちゃになってる、レスラー・やくざが入り乱れて大げんかになってる、もう大変なことになってる」って言ったら、「大丈夫ですよ。大丈夫ですよ」「大丈夫じゃないから!」「わかりました。僕はこういうときは冷静に話をつけますから、古館さん見ててください。本当にうちの若いのはだめ。本当に、レスラーなんていうのはね、やくざとけんかしちゃだめ。こういうときはただ謝って殴られるのが、やっぱり男らしさでしょう」って言って。それで、「そうですか、とにかく」って言って。で、猪木さんを連れて、エレベーターに乗って、チーンってロビーに着いて、ピッてドアがあいて、やくざが「オラ!」って来た瞬間、があっとスリーパーをやってるのよ。で、こう引きずってるの、エレベーターのほうに。こう引きずってるの。条件反射。あんだけ「冷静に謝るんだ」「殴られたって殴られなれてるからいいんだ」「見ててください」とか言って、余裕しゃくしゃくで格好よく、チーンって着いて、こらあ、このやろう、おりゃあってこう引きずった男。
 で、警察とかも来て、ちゃんとようやくおさまって、部屋に戻って、「いやあ、古館さんもお疲れさまでした。じゃあ乾杯して寝ましょうか」「猪木さん、言ってることとやってることが……」「いやあ、ついつい」って。「来ちゃえば、ねえ(笑)?」って。

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